飲食店 建築基準法の内装制限とは?開業前に知っておきたい安全基準と注意点

投稿日:/最終更新日:
この記事は約6分で読めます
執筆者:古川原

飲食店 建築基準法の内装制限とは?開業前に知っておきたい安全基準と注意点

飲食店を開業・改装する際、「どこまで自由に内装を変えていいのか?」と悩む方は多いでしょう。
内装デザインやレイアウトの変更には、実は建築基準法をはじめとした法律上の制限が関係しています。
これを知らずに進めると、「工事がやり直し」「営業許可が下りない」といったトラブルにつながることも。

この記事では、店舗デザインや内装工事に関わる専門家の視点から、飲食店における建築基準法と内装制限の基本ポイントをわかりやすく解説します。

なぜ飲食店の内装に「建築基準法」が関係するのか

飲食店の内装デザインは、見た目の美しさや雰囲気づくりだけでなく、「安全性」と「法令順守」が求められます。
その中心となる法律が建築基準法(けんちくきじゅんほう)です。
建築基準法とは、建物の安全や衛生、避難のしやすさなどを確保するために定められた法律で、すべての建物に適用されます。

飲食店は「人が多く集まり、火やガスを使う」業種のため、特にこの法律の中で防火・避難・衛生に関する制限が厳しく定められています。
たとえば、壁や天井の仕上げ材は「不燃材(ふねんざい)」または「準不燃材(じゅんふねんざい)」でなければならない場所があります。
これは、火災が発生した際に炎が広がりにくくするためです。

なぜ飲食店の内装に「建築基準法」が関係するのか

また、内装を変更する際には、「用途変更」や「建築確認申請」が必要になる場合もあります。
たとえば、以前は「物販店」だったテナントを「飲食店」にする場合、建物全体の防火区画や避難経路の設計が飲食用途に適しているかを確認しなければなりません。 この確認を怠ると、完成後に行政から是正指導(工事のやり直し命令など)を受けることもあります。

さらに、建築基準法だけでなく、消防法や食品衛生法など複数の法令が関係する点も注意が必要です。
建築基準法はあくまで「建物の構造・安全」に関するルールですが、消防法は「火災時の対応・避難」、食品衛生法は「厨房や水回りの衛生管理」を目的としています。 そのため、「建築基準法では問題なし」と判断されても、消防検査でNGとなるケースも珍しくありません。

飲食店の内装工事では、「デザイン性」「使いやすさ」「法令遵守」の3つをバランスよく考えることが大切です。
特に、デザイン会社や施工業者に依頼する前に、どのような法的制限があるのかを知っておくことが、後々のトラブルを防ぐ第一歩になります。

飲食店で注意すべき建築基準法・内装制限の主な項目

飲食店の内装には、建築基準法によっていくつかの制限が定められています。
ここでは、店舗計画の段階で特に注意すべき主要なポイントを整理しておきましょう。

1. 防火区画と内装制限

飲食店では、厨房や客席など火を扱うスペースがあるため、火災時に炎が広がらないように「防火区画」の考え方が重要になります。
建築基準法では、火気を扱う部分や避難経路の一部には、不燃材または準不燃材で仕上げることが義務づけられています。

不燃材とは、火をつけても燃えにくい材料(例:石膏ボード、金属板など)で、準不燃材は一定時間だけ燃焼を抑える性能を持つ材料です。
見た目が木目調でも、内部が不燃素材であれば使用可能な商品もあります。
デザイン重視の空間でも、防火性能を満たした仕上げ材を選ぶことで、安全性と雰囲気を両立できます。

2. 天井・壁・床の仕上げ材に関する制限

客席や通路、厨房などの用途によって、使える内装材の区分が異なります。
特に、天井や壁が避難経路に面している場合は「不燃材」が必須です。
一方、客席部分は「準不燃材」で認められることもあります。
この区分は建物の構造・面積・階数によって異なるため、図面段階で設計者と確認が必要です。

また、厨房床には耐熱・防滑・排水性が求められます。
衛生面では、食品衛生法にも関連し、床が清掃しやすい材質かどうかも審査対象になります。

3. 換気・排煙設備の基準

火気設備を使う飲食店では、適切な換気量と排煙経路の確保が必須です。
排気ダクトの設置位置や排煙ファンの能力が基準を満たしていないと、建築確認や消防検査で不備を指摘される可能性があります。

特に、ビルのテナントでは、既存の排煙ダクトを複数の店舗で共有しているケースが多く、容量オーバーになりやすい点に注意が必要です。
厨房機器を入れ替えるだけでも換気計算の見直しが必要になる場合があります。

4. 非常用照明・避難経路の確保

火災や停電時にお客様を安全に避難させるため、避難経路と非常用照明の設置も建築基準法で定められています。
特に地下や2階以上に客席がある飲食店では、避難口の幅や数、階段の位置、照明の明るさなどが基準に適合しているかを確認しなければなりません。

照明器具をデザイン重視で暗くしてしまうと、避難誘導基準を満たさないケースもあります。
安全性を損なわない範囲で演出を行うことが重要です。

5. トイレ・手洗い設備など衛生面での要件

衛生設備に関しては、建築基準法のほかに食品衛生法の規定も関わります。
飲食店では、手洗い場の位置・数・給湯設備・排水処理などが衛生面からチェックされ、保健所の営業許可にも影響します。

また、建築基準法上では「便所の設置義務」があり、店舗の規模や客席数に応じて男女別・多目的トイレなどの設置が求められる場合もあります。
これらを改装の終盤で追加するとコストが大きく膨らむため、設計初期の段階で計画に組み込むことが重要です。

トイレ・手洗い設備など衛生面での要件

これらの要件を満たしていないと、内装工事の途中や完成後に行政から是正指導を受ける可能性があります。
安全で法令に沿った店舗をつくるためには、設計段階から内装制限を理解し、専門知識をもつ内装業者・設計事務所と連携することが不可欠です。

用途変更や居抜き物件の注意点

飲食店の開業では、「以前は別の業種だった店舗を改装して使う」ケースがよくあります。
しかし、建物の用途を変える場合や居抜き物件を再利用する場合には、建築基準法上の確認や申請が必要になることがあります。
この章では、トラブルを防ぐために押さえておきたい注意点を解説します。

1. 「用途変更」とは何かを理解する

建築基準法における用途変更(ようとへんこう)とは、建物の使い方を変えることを指します。
たとえば、「物販店」や「事務所」だったテナントを「飲食店」として使う場合、建物の安全基準が変わるため、建築確認申請が必要になることがあります。

用途変更が必要かどうかは、「変更する部分の床面積」と「防火・避難上の区分」で判断されます。
延べ面積が200㎡を超える場合や、建物全体の安全性に関わる変更を行う場合は、ほとんどのケースで申請が求められます。

一方、小規模なテナントで内装の変更だけに留まる場合は、申請不要となることもあります。
判断が難しいため、設計事務所や内装会社に早めに相談することが重要です。

2. 居抜き物件を使うときの落とし穴

居抜き物件は、既存の厨房設備やカウンター、配管が残っており、初期費用を抑えられるメリットがあります。
しかし、前の店舗が守っていた法令基準が現在の基準と一致しているとは限りません。
たとえば、10年前に営業していた店舗の設備が、最新の防火基準や換気基準を満たしていないケースも珍しくありません。

また、壁や天井の内装材が準不燃仕様になっておらず、再利用すると違反になる可能性もあります。
「見た目がそのまま使えるから」と安易に工事を進めると、保健所や消防検査で指摘を受け、結果的に大規模な手直しが必要になることもあります。

3. 内装工事を始める前に確認すべきポイント

工事着手前には、以下の3点を必ず確認しておくと安心です。

  • 現在の建物が「飲食店用途」として使用できる構造か
  • 防火区画・避難経路・換気設備が法令に適合しているか
  • 建物オーナーや管理会社が改装工事を承認しているか

テナントビルでは、ビル側が「共用排気ダクトの改修不可」「床の貫通工事禁止」など独自の制限を設けていることがあります。
これらを確認せずに工事を進めると、あとから「設備を設置できない」「工事が中断する」といったトラブルに発展しかねません。

4. 専門家による事前調査の重要性

用途変更や居抜き改装では、設計士や内装業者による現地調査(現況確認)が非常に重要です。
現地調査では、建物の図面・天井裏・ダクト・防火区画などを確認し、工事の可否や法的リスクを洗い出します。
この調査を怠ると、後から予想外の追加費用が発生する可能性があります。

特に、スケルトン物件よりも「一見きれいな居抜き物件」のほうが、見えない部分の法令違反リスクが高いといわれます。
コストを抑えるつもりが、結果的にスケルトン改装より高くつくこともあるため、慎重な判断が必要です。

飲食店開業における内装計画は、見た目のデザインよりもまず「法的に成り立つかどうか」を確認することが基本です。 もし物件の段階で少しでも不安がある場合は、建築基準法に詳しい内装業者や設計士に無料で相談するのがおすすめです。

お店と設計施工会社をつなぐサービス、
店舗設計施工.com

建築基準法だけじゃない!関連法規と行政手続きの全体像

飲食店の開業や改装では、建築基準法だけでなく、複数の法律や行政手続きが関係します。
それぞれの法律は目的が異なり、担当する行政機関も分かれています。
ここでは、特に関係が深い法令と、開業までの手続きの流れを整理してみましょう。

1. 消防法:火災予防と避難安全のためのルール

消防法は、火災を防ぎ、人命を守るための法律です。 飲食店は火気設備を扱うため、建築基準法よりも細かい防火・避難対策が求められます。

消防検査では、ダクトや照明など「建築基準法で問題なし」とされた部分でも、排煙や避難経路の観点から指摘を受けることがあります。 そのため、内装工事中から消防署と連携しておくことが非常に重要です。
消防検査については以下の記事で詳しく解説しています。

2. 食品衛生法:厨房や水回りに関する衛生基準

飲食店の営業許可を得るには、食品衛生法に基づく保健所の審査をクリアする必要があります。
ここでチェックされるのは、建物全体ではなく、主に「厨房設備と衛生管理」の部分です。
主な確認項目は以下のとおりです。

  • 手洗い場やシンクの数・位置・給湯設備の有無
  • 調理エリアと客席の区分(衛生区分)
  • 食品保管庫や冷蔵庫の配置
  • 床・壁・天井の清掃性と防水性能

これらは建築基準法とは別の観点で審査されるため、図面作成の段階から保健所の基準に沿った設計を行う必要があります。

3. 都市計画法・用途地域の確認

意外と見落とされがちなのが、都市計画法による「用途地域」の制限です。
用途地域とは、建築できる建物の種類や用途を制限するエリア区分のことで、 たとえば「第一種低層住居専用地域」では飲食店営業そのものが認められない場合があります。

この制限は物件探しの段階で確認しておくべき内容です。
不動産会社や設計士に「この用途地域で飲食店が可能か」を早めに確認することで、あとから開業を断念するリスクを避けられます。

4. 各種手続きと申請の流れ

実際の開業までには、複数の行政機関に対して申請・届出を行う必要があります。
一般的な流れを以下にまとめます。

  • 物件契約・設計計画
  • 必要に応じて建築確認申請(建築基準法)
  • 消防署へ防火対象物使用開始届(消防法)
  • 保健所へ飲食店営業許可申請(食品衛生法)
  • 検査・許可後に営業開始

これらの手続きは、建築確認 → 消防 → 保健所の順に進めるのが一般的です。 同時並行で進める場合も、各機関の審査ポイントが重複しているため、図面や仕様の整合性をとることが大切です。

これらの法令をすべて把握するのは難しくても、「自分の店舗にはどの法律が関係するか」を理解しておくだけで、開業準備が格段にスムーズになります。

失敗しないためのポイントと専門家への相談タイミングは?

ここまで見てきたように、「飲食店の内装制限」は単なるデザイン上の制約ではなく、法律で明確に定められた安全基準です。
一見シンプルなルールに見えても、実際は用途・面積・構造によって細かく異なり、自己判断で進めると違反になるケースも少なくありません。
最後に、開業や改装を成功させるために押さえておくべきポイントと、専門家に相談すべきベストなタイミングを整理します。

内装制限で失敗しやすいパターン

飲食店オーナーが見落としがちな代表的な失敗例は次の3つです。

設計を進めたあとに「不燃材指定」が発覚
デザイン重視で壁や天井材を選んだ後、「この素材は燃えやすいので使えません」と言われるケースはよくあります。
素材の変更はデザインやコストに大きく影響するため、設計初期の段階で防火区分を確認しておくことが重要です。

厨房まわりの仕様を軽視
厨房周辺は特に火気が集中するため、他のエリアよりも厳しい防火基準が適用されます。
壁・天井・換気ダクトの仕上げ材だけでなく、レンジフードや給排気設備の材質まで確認が必要です。

建物の構造条件を把握していない
同じ店舗面積でも、ビルの構造や避難経路の有無によって適用される基準が異なります。
たとえば、ビルの2階以上にある店舗は、1階路面店よりも避難経路が制限されやすく、内装制限が厳しくなる傾向にあります。

専門家に相談するベストなタイミング

「どのタイミングで相談すべきか分からない」という声も多いですが、理想は次の流れです。

物件選びの前後(内見段階)で相談する
建物の構造や用途変更の可否によって、内装計画の自由度が大きく変わります。
早期に確認することで、「理想のデザインが実現できない物件」を避けられます。

レイアウトが固まる前に設計士・施工業者と打ち合わせ
壁材や天井材の選定、換気・防火設備の配置を早い段階で調整することができます。
後からの修正はコストアップの原因となるため、初期段階の相談が鍵です。

保健所・消防への申請前に最終チェック
行政への届出内容と実際の工事計画に差があると、指導を受ける可能性があります。
施工会社や設計士が法令確認をしてくれる場合でも、複数の視点でダブルチェックしておくと安心です。

安心して開業するための一括見積もりの活用

飲食店の内装工事は、見た目だけでなく法令遵守と安全性を両立させることが欠かせません。
しかし、複数の施工会社を自分で比較しながら法的基準を確認するのは現実的ではありません。

そのため、飲食店の施工実績が豊富な業者に一括で見積もりを依頼するのがおすすめです。
同じ要望でも、業者によって提案内容や対応範囲(消防申請、設計サポートなど)が異なり、比較することで「デザイン・コスト・安全性」をバランス良く検討できます。

店舗デザインや内装工事のマッチングサービスを活用すれば、複数の信頼できる内装業者から無料で見積もり提案を受け取ることができ、 法令面も安心して開業準備を進められます。

まとめ

飲食店の内装制限は、デザインの自由を制限するためではなく、お客様とスタッフの安全を守るための大切なルールです。
一見複雑に感じるかもしれませんが、建築基準法・消防法・保健所の基準を正しく理解し、専門家と連携しながら進めることで、デザイン性と安全性を両立した店舗づくりが可能です。

特に、開業や改装を控えている方は、「この素材は使える?」「このレイアウトで問題ない?」といった不安を抱えたまま進めるよりも、 早い段階で店舗設計・内装工事の専門業者に相談することが、結果的にコストと時間の節約につながります。

店舗設計施工.comでは、飲食店の施工実績が豊富な複数の業者に、まとめて見積もりを依頼できます。
建築基準法や内装制限を踏まえた提案をしてくれるため、「デザイン・安全性・コスト」の3つをバランスよく比較できます。

内装制限に強い業者を探したい方は、まずは無料で見積もりを登録して、最適なパートナーを見つけてみましょう。

お店と設計施工会社をつなぐサービス、
店舗設計施工.com

記事の監修・執筆者

  • 株式会社ライフワン 古川原

  • 記事の監修・執筆者近影

  • 所有資格
    • ・2級建築士
    • ・第2種電気工事士
    • ・石綿作業主任者
    • ・一般建築物石綿含有建材調査者
  • 店舗設計施工.com運営担当の古川原です。施主様、店舗デザイン・内装工事会社様にも満足いただけるよう皆様をサポートさせていただきます。
    コラムでは皆様の出店・開業に役立つ情報を発信していますので、当マッチングサービス内容も併せてぜひご覧ください!

    店舗設計施工.comとは

店舗開発・施設管理に役立つコラム

TOP